論文賞受賞一覧
2023年度 日本地域看護学会 表彰論文
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原著
男性高齢者の社会活動への参加要因に関する研究 - 森永朗子・原田春美・緒方久美子・兼岡秀俊
- 第25巻第1号,4-11,2022
- ◆ 選考理由
- 地域在住の男性高齢者の社会参加活動に関連する要因を明らかにし、社会活動への参加を促進するための支援のあり方を考察することを目的とした研究である。調査対象は某市1地区の男性高齢者980名で、無記名自記式質問紙調査が行われた。個人的側面、身体的側面、心理的側面から要因を設定し、因子分析により抽出された3因子からなる社会活動に関して設定した要因との相関分析を行い、結果から介護予防支援や移動への支援、ICTの活用の必要性が考察されている。 地域での課題となっている男性の社会活動について、目的別にその推進要因を明確にしたことは、看護職が社会活動の観点から対象をアセスメントし支援を行う際に考慮すべき事項に関して、具体的な示唆を与えるものと考えられた。投票において最高点を得た論文であり、本委員会においてもその問題意識や研究方法の妥当性、知見の活動への適応において秀でた先駆的な学術論文であり、地域看護学の発展への貢献が大きいと評価し、優秀論文に選定した。
- ◆ 受賞者の声
- このたびは日本地域看護学会の優秀論文賞という大変名誉ある賞を賜り、誠に光栄に存じます。受賞にあたり、本研究の趣旨に賛同しご協力いただいた地域在住の男性高齢者の皆様、民生委員の皆様に感謝を申し上げます。また、投稿論文を精査し的確なご助言をいただきました編集委員会や査読委員の方々、本研究へのあらゆる段階でご助言・ご指導いただいた諸先生方に改めて感謝申し上げます。皆様のご協力・ご教示なしにこの研究を進めることはできませんでした。
- この研究は私が地域包括支援センターで勤務していた際に感じていた「男性高齢者は女性に比べ日頃どのような社会活動に参加しているかわかりにくい」という疑問から始まりました。研究結果から、若いうちは個人の楽しみの活動や継続する学びの活動といった支援者側が把握しにくい社会活動に参加し、年齢を重ねるにつれ徐々に地元と交流する活動への参加が増えていくという男性高齢者の特性が明らかになりました。今後、多くの男性高齢者が希望する社会活動に参加し続けるためは、これまでも提唱されていることではありますが、身体機能の維持に対する支援や移動への支援が特に必要であると考えます。
- 本研究を実施した直後、COVID-19の世界的流行に伴い、高齢者の活動の多くが制限され、形を変えることを余儀なくされました。本研究で提案したようなICTを利用した活動など、新たな活動の場を提案し作り上げていくことが急がれます。地域包括ケアシステムの構築の視点からは、どのような年代でも地域での社会活動に参加できるような仕組み作りがまだ充足していないと感じます。今回の結果を励みに、しかしこれに満足することなく、今後も様々な立場にいる人々が参加しやすい活動の場をどう増やしていくかということに目を向けたいと思います。そして、そのことが地域の人々の健康の維持増進に役立つよう更に研究活動を進めてまいりたいと思います。
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研究報告
全国市区町村における災害時の共助を意図した平常時の保健師活動 - 細谷紀子・佐藤紀子・杉本健太郎・雨宮有子・泰羅万純
- 第25巻第2号,4-12,2022
- ◆ 選考理由
- 全国市区町村において災害時の共助を意図し、平常時にどのような保健師活動が行われているかを明らかにすることを目的とした研究である。全国の市区町村の統括保健師を対象に活動実施の有無とその概要の自由記載を求める自記式質問紙調査が行われ、535件の回答に対して、実施の有無と、活動の対象、方法が整理された。活動を実施している自治体は29.9%であり、保健師活動に関しては、9のカテゴリ、21のサブカテゴリ。50の小カテゴリが整理された。 昨今の災害の頻発とその際の保健師活動の重要性を考慮すると重要なテーマを扱っており、また膨大なデータを、共助の醸成という保健師の特徴的な活動の視点から丁寧に分類している。投票において高得点を得た論文であり、地域の保健師活動にすぐに参考となる知見を得ていることから、奨励論文に選定した。
- ◆ 受賞者の声
- このたびは、日本地域看護学会奨励論文賞を賜り、誠にありがとうございます。大変光栄に存じますとともに、身の引き締まる思いでいっぱいです。本調査にご協力をいただいた全国市区町村の統括保健師の皆さまに、改めまして心よりお礼申し上げます。また、論文の精練に向けてご示唆くださった編集委員会や査読委員の先生方に感謝申し上げます。
- 災害への備えについては各自治体でご尽力されていることと存じますが、災害時の住民相互の助け合いの推進を意図した平常時の保健師活動の実施割合は、調査に回答を得た自治体の約3割にとどまるという実態がありました。一方、共助を意図した活動が行われている市区町村では多様で素晴らしい活動が展開されており、それらを可視化し、これから着手される保健師の皆さまに、お役に立てていただければとの思いで本論文を投稿いたしました。それと同時に、共助を意図した活動には、受け持ち地区全住民を対象として活動を展開する保健師本来のもつ役割や強み、それらを恒常的に機能させるシステムづくりの様が表れており、保健師の専門性を説明する一助にもなるのではとの思いもございました。このたびの受賞をきっかけに、市区町村保健師の皆さまに本論文をお目通しいただき、日々の活動に活かしていただければ大変ありがたく存じます。
- 本調査を実施したのは2020年の初冬であり、その後我々は新型コロナウイルス感染症のまん延を経験し、本年年頭には能登半島地震の発生があり、毎年各地で豪雨災害が発生するなど、災害や健康危機への備え・対応の必要性はますます高まっていると思います。いつも最前線で災害対応にあたられている市区町村保健師の皆さま方に敬意を表しますとともに、保健師活動に貢献できるような研究にこれからも取り組んで参りたいと存じます。
- なお、本論文はJSPS科研費JP15K11889の助成を受けて実施した研究結果の一部です。
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研究報告
独居高齢者の低栄養の高リスクと身体的・心理社会的健康との関連;会食会参加者への調査をとおして - 廣地彩香・上野昌江・大川聡子・根来佐由美
- 第25巻第1号,31-39,2022
- ◆ 選考理由
- 独居高齢者会食会に参加した283名に対して調査を実施することで、独居高齢者の低栄養の高リスクと身体的・心理社会的健康との関連を明らかにすることを目的とした研究である。高リスク群とその割合が特定されるとともに、多変量ロジスティック回帰分析により、低栄養との関連要因が明らかにされた。
投票において高得点を得た論文であり、社会的なリスクを有するとされる独居高齢者を対象とし、要介護状態のリスクとされる低栄養との関連要因を明らかにしたことは、地域での予防活動において意義あるものと考えられた。ことに「糖尿病で通院」の要因は、糖尿病有病者の自己管理方法への新たな示唆を与えるものであることのほか、買い物に自分で行くことや友人と会うといった社会性の維持の重要性のエビデンスを示すものと考えられた。 - ◆ 受賞者の声
- この度は2023年度地域看護学会の奨励論文賞を賜りまして、大変光栄に存じます。受賞に対し、喜びと同時に研究者として今後も研鑽していかなければならないと身の引き締まる思いがしました。
- 高齢化の進展とともに独居高齢者はますます増加することが予想され、独居高齢者が地域で生活し続けるためにも健康の維持が求められます。本研究のきっかけは大学院生時代に住民が運営する主に独居高齢者を対象としたデイサービスでのボランティアです。活動の中で元気な人ほど食事を完食されており、日頃から食事や栄養を意識して生活されていることを知りました。地域でいきいきと健康に過ごすために、低栄養の予防が重要ではないか、少しでも対象者に役立つことができればと考え、本研究の実施に至りました。
- 本研究の結果から独居高齢者の低栄養リスクには糖尿病の通院歴、食べ物の飲み込みにくさ、友人に会う頻度、家族に買い物を頼む頻度など身体的、心理社会的な要因との関連が明らかになりました。低栄養というと身体面に目が向きますが、人との関わりや買い物など、対象者の生活に根差すという保健師の視点を持ち、一人一人の生活にあった支援が大切だと改めて感じました。また糖尿病の通院歴など疾患の自己管理については、独居だからこそ自己管理することの困難さを抱えているのではないか、自己管理が難しくなった際にその現状が把握しづらく支援に結びつきにくいのではないかと考えます。地域で生活し続けるためにも疾患の自己管理は重要な視点であると考えるため、今後の研究として取り組んでいきたいです。
- 最後に本論文を執筆するに当たり、研究にご協力いただきました会食会の参加者のみなさま、研究実施に当たりご尽力いただきました社会福祉協議会および地域包括支援センターのみなさま、研究計画から投稿にあたりご指導いただきました先生方に心より感謝申し上げます。